サイトオープンしました!

中小運送業者の2024年問題 インタビューから見る現場の声

物流業界を大きく震撼させた、所謂2024年問題。2024年4月、働き方改革法案によりドライバーの労働時間に上限が課されることで、労働環境が改善される一方、長距離物流への支障、物流コストの上昇、ドライバーの収入減少などのデメリットも挙げられ、「物流の2024年問題」と言われています。

それに対し、一般に謡われる解決策とは、DX、賃上げ、値上げなど。しかし、日本のトラック業界の99%以上を占める中小企業(※)は、これらの対策がどこまでできているのでしょうか?「国際物流の森」では、輸出入貨物を扱う中小物流業者にインタビューを実施。その声からは、報道されない厳しい実情が見えてきました。

目次

2024年問題の具体的影響

一般に懸念される通り、実際のインタビューでも、

・営業収入の減少

・ドライバー自身の賃金減少

という返答が最も多く見られました。その原因としては、

・仕入れ値高騰、

・1車両あたりの稼働率低下、

・長距離運送を行う業者では、やはり走行距離の制限

があります。また、荷主等に条件交渉を行う必要もあり、営業的な負担も多くの業者から声が寄せられました。

では、実際に従業員の離職や求職減少が見られたかというと、まだその声は多くは届いておらず、現状は何とか持ちこたえているという可能性も見られます。

賃上げ?値上げ?DX?推奨される改善策は可能なのか?

それでは、こういった問題に対し、中小企業はどういった対策を取っているのでしょうか?

最も多く見られたのは、

・運航計画の見直し・効率化

・荷主等との運賃交渉・荷待ち時間等削減への働きかけ

といった、目前に抱える具体的な問題の解決のようでした。それに続いて、

・ドライバー等の担い手確保・育成

・賃金を含む労働条件・職場環境の見直し

といった、長期的・人事的対策を行っている業者が続きました。
「DXの推進による生産性の向上」については、行っているとの返答は皆無。政府が推奨するDXも、中小企業にとっては導入が難しい、何を行えばどのようなメリットが得られるのか、十分に浸透していない現状が浮き彫りとなりました。

運送業の未来:ドライバー確保は死活問題

元々、トラック業界は運転できる資格、経験、スキルがあれば年齢を問われないこともあり、平均年齢が高めの業界です。

★「今後ドライバー希望者は増えるのか?」
将来を担う若手ドライバーの確保は、業界にとって重要な課題。今回のアンケート中、「今後ドライバー希望者は増えるのか?」との問いには、「減る」が約7割、「変わらない/どちらとも言えない」が約3割と、将来を憂う回答が得られました。

「減る」と思う理由
  • 仕事の制限による収入の減少
  • ドライバーの高齢化
  • 若い人が魅力を感じる職種になっていない
  • 事故のリスクが高い
  • 今はだいぶ良くなってきたが、出勤時間が不規則
  • 真夏のバラ積み荷物の取り扱い
  • 運送業はなくならないと思うが、体力的にいつまで続けられるか不安
「変わらない/どちらとも言えない」と思う理由
  • 運転が好きな人には魅力
  • 煩わしい人間関係やノルマがない
  • 以前は労働条件は悪いが収入は高かった
  • 現在は労働環境は改善され働きやすくなっている。ただし給料は安くなっている

マイナスな面としては、過酷な作業・環境や賃金等の労働条件があげられる一方、運転が好きな人・人間関係の気楽さなど、トラックドライバーの仕事の特性が依然好まれるという実情も浮き上がりました。

では、「今後どうしたら若手ドライバーを確保できるか?」という問いに対しては、

・1000万円以上など高収入が得られる

・社会的地位の向上

といった待遇面の改善を望む声がまず見られました。
しかし、下請け・孫請けをベースとする中小運送業者の特性上、実際の運賃値上げも難しく、またその恩恵は元受けでストップすることも慣例上多いのが実情。

・バラ積み納品を減らす

・梱包を変える

など、人を増やさなくてもできる環境整備・効率化による利益率アップを提唱する地道な声も聞かれました。

★個人ドライバーという選択肢

タクシー業界では、ライドシェアなど個人事業を後押しする政策が話題になっています。では、「トラック業界でもこういった個人ドライバーは活躍できるか?」と考え、問いかけてみました。

現役の中小物流会社から得られた返答は、「あまり現実的ではない」という見解でした。理由は、

・法人取引での信用面での不安があり、法人が契約したがらない

・トラックのメンテナンス・修理にかかる費用が高額であり、個人ドライバーとしてはリスクが高い。

など。また、現在の法令では、トラック5台未満の運送業が禁止されており、法令改正が必要なこともあるでしょう。

しかし、アメリカではオーナーオペレーターという個人事業としてのドライバーが一般的な形態として定着しています。日本でも法令・環境・特に法人顧客の意識を変えて、若者が個人事業として参入できる環境が整備されてくれば、広がる可能性も考えられます。

まとめ:トラック業界を守るには?

インタビューの結果から、2024年の改革により、中小企業においても、労働条件は良くなっているものの、収益・収入的にはひっ迫している現状が浮き彫りとなりました。

DXや値上げ・賃上げなど、一般的に言われている解決方法は中小では難しく、このリアルな現状を踏まえ、荷主・元受けも、配車・金額・効率化等の相談があった場合は、真剣に対応を考えることが今後の物流を支えることに繋がると言えます。

また、トラックドライバーという仕事の魅力は、収入だけでなく、「運転が好き」「自由」「集中できる」などの特性もあり、こういった生き方ができる職場環境を維持することも、トラック業界を守ることになるのかもしれません。

(※出典:2022年9月2日 経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」)。

目次